前回のコラムでは、新しく契約する場合の「新規賃料」と、既存の契約を改定する場合の「継続賃料」についてご紹介しました。

では、不動産鑑定評価では、この継続賃料をどのように求めるのでしょうか。

継続賃料を求める方法には、主に4つの手法があります。

① 差額配分法

例えば、現在の家賃が15万円、新規に貸し出す場合の適正な家賃が20万円だったとします。

差額配分法は、この差額5万円のうち、どの程度を貸主に帰属させるかを考える方法です。

仮に差額の50%を貸主に配分すれば、継続賃料は17万5,000円になります。

不動産鑑定評価基準では、契約の経緯や差額が生じた要因などを分析して、配分割合を適切に判断することとされています。

しかし、なぜ50%なのでしょうか。30%や70%ではいけないのでしょうか。

私の経験では、最終的に50%ずつ配分するケースが多かったです。

双方の事情を考慮した結果ではありますが、どこか「喧嘩両成敗」に近い感覚もあります。

理論的な手法でありながら、配分割合の判断には難しさが残ります。

② スライド法

過去に合意した賃料を出発点として、その後の経済情勢の変化を反映する方法です。

例えば、家賃15万円で合意した後、関連する経済指標が10%上昇したとします。

単純化すれば、

15万円 × (1+10%) = 16万5,000円

という考え方です。

比較的わかりやすい方法ですが、そもそもの家賃が周辺相場より安かった場合はどうでしょうか。

もともとの家賃が安ければ、そこに変動率を掛けても、安いままです。

過去の賃料を出発点とすることが、この手法の弱点にもなります。

③ 利回り法

不動産の価値と利回りの関係から、継続賃料を求める方法です。

不動産投資では、取得価格に対してどの程度の収益を得られるかという利回りの考え方が用いられます。

しかし、鑑定評価で用いる「継続賃料利回り」は、投資家が考える利回りとは少し異なります。

鑑定評価では、過去に合意した賃料と不動産価格の関係などを分析して、この利回りを求めます。

ただし、私の経験上、継続賃料利回りという数字を意識して賃料を決めている当事者に出会ったことはありません。

さらに、過去の利回りを計算できたとしても、それを現在の利回りにどのように修正するのか、明確な答えがあるわけではありません。

鑑定評価基準では、過去の利回りや類似不動産の賃貸借事例などを参考にすることとされています。

しかし、そもそも類似不動産の継続賃料利回りを把握すること自体が難しいのです。

利回りを求めるために、別の利回りを参考にする。

しかし、その参考となる利回り自体も簡単には把握できない。

理論としてはよくできている一方、実務でその理論を裏付けることが難しい。

ここに、利回り法の大きな課題があると思います。

④ 賃貸事例比較法

最後は、実際に改定された賃料の事例を比較する方法です。

同じような物件で、家賃が15万円から17万円に改定された事例があれば、その改定内容は有力な参考資料になります。

実際の市場で成立した賃料を比較できるという意味では、非常に説得力のある方法です。

ところが、大きな問題があります。

新規募集の賃料はインターネットで調べられますが、既存の貸主と借主が、いくらからいくらに改定したのかという情報は、ほとんど公開されていません。

私自身、これまでの鑑定評価で、この手法を実際に適用できたのは、記憶する限り1〜2回程度です。

一方、同じ建物内であれば、実際の賃料改定事例を把握できる場合もあります。

立地や建物の条件が共通しているため、非常に参考になる情報です。

しかし、同じ建物だからこそ、誰の契約なのか推測されやすく、情報の取扱いには慎重さが求められます。

事例があっても、それをそのまま交渉資料に使えるとは限らない。

ここにも、この手法の実務上の難しさがあります。


このように、4つの手法には、それぞれ異なる難しさがあります。

差額配分法は、配分割合の判断。

スライド法は、出発点となる賃料の水準。

利回り法は、継続賃料利回りの把握。

賃貸事例比較法は、比較できる事例の収集と、その取扱い。

だからこそ、不動産鑑定評価では、一つの手法だけに頼るのではなく、複数の手法による試算結果を比較・検討しながら、継続賃料を判断していきます。

鑑定評価の難しさは、計算式を知っているかどうかではなく、その計算式に入れる数字をどう説明するかにある。

そして、理論上の継続賃料を求めることと、実際にその金額で貸主と借主が合意することは、また別の問題です。

不動産を、ひとつの見方で終わらせない。

賃料の評価にも、同じことが言えるのかもしれません。